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ディズニーブログです。

コンセプトアートをめぐる冒険~ハーブ・ライマンの地図の伝説に迫る~

 

この記事は

ディズニー関連ブログ Advent Calendar 2017 - Adventar の14日目の記事です。

 

みなさんこんにちは。

去年のd_advent企画に参加して以来1年ぶりのブログ更新です。

いかがおすごしでしょうか。

 

今年、こんな記事が話題になっていました。

jp.reuters.com

アナハイムにある元祖ディズニーランドの
世界で最初に描かれたマップ(コンセプトアート)がオークションに
かけられる・・・という記事です。

 

なのですが、この記事、ちょっと事実誤認が目立ちます。

まず記事の見出しが

W・ディズニー手書きのディズニーランド地図が競売に

となっていますが、この地図を描いたのは

ウォルト・ディズニーではありません・・・。

記事本編ではそこのところ、もう少し詳しく書かれているのですが・・・

地図は手書きで、ディズニーとアーティストのハーブ・ライアン氏が作成。カリフォルニア州アナハイムの元祖ディズニーランド建設に伴う資金調達のため、投資家向けのプレゼンテーションで使用された。

”ハーブ・ライアン”って誰だよ!

ディズニーランドのオリジナル地図を描いたのは

正しくは"ハーブ・ライマン" (herb ryman)です!

 

ネタ元である↓のロイター英語版の記事には

上記の間違いは見られないので、日本語版を担当した人の

誤訳&誤植ですね。まったく・・・。

www.reuters.com

 

このままではハーブ・ライマンも浮かばれない・・・

ということで、今回はこの地図と それにまつわるミステリーについて

書きたいと思います。

■ハーブ・ライマンって誰?

まず、地図を描いたハーブ・ライマンってどんな人なのでしょう?

(Dヲタからするともはや説明不要なのですが、一応ね)

本名ハーバート・ライマン。
初期はアニメーターとしてファンタジアやダンボなどの作品で

アートディレクターを務め

ディズニーランド創成期から伝説的なイマジニアとして活躍。
今回の地図の他、眠れる森の美女の城のコンセプトアートを描いたのもこの人です。

アナハイム60周年のキャッスルのリハブの際、

工事隠しの垂れ幕にコンセプトアートを印刷するという粋な演出があったのが

記憶に新しいですね。

twitter.com

 

www.disneyavenue.com

さらにはTDL開園時のコンセプトアートもこの人によるもの。

twitter.com

個人的には、EPCOTのコンセプトアートが一番のお気に入りです。

 

twitter.com


氏のコンセプトアートの優れたところは
単なる完成予想図ではなく、パークの持つ理念や精神を具現化する
まさに”コンセプト”を表現しているところではないかと思います。

 

■地図にまつわる伝説

 

 

さて、地図の話に戻りましょう。こちらのアートが描かれた経緯は

しばしば"伝説"として語られます。

参考にできる本はいくつかあるのですが、

今年7月に亡くなられた

マーティ・スクラーさん(こちらも伝説的なイマジニア)著の
「ディズニー 夢の王国をつくる」から一部抜粋してみましょう。

 

2002年に刊行された

「絵筆とディズニー-ハーバート・ディケンズ・ライマンの言葉と作品で綴る、あるアーティストの旅」でハーブは当時のことを語っている。

 

1953年9月26日の午前10時ごろ、思いがけずウォルトから電話があった。

中略)

「ハービー、私はアミューズメントパークを作ろうとしている。今もちょうどその話をしているところだ」

・・・・・・「どんな名前になるんですか?」

「ディズニーランドにしようと思っている」

「いい名前ですね。ところで、私にどんなご用ですか?」

「月曜日の朝、ロイがニューヨークに行く。銀行家に会うんだ。

手始めに1700万ドルの資金が必要だ。・・・君もわかるだろう、

銀行家には想像力がない。やりたいことを説明しても、彼らはイメージを思い描けない。視覚的に表現できないんだ。そこで、カネを引き出せそうな機会に、私たちがやろうとしていることを見せなければならない」

「私にもぜひ見せてください。どこにあるんですか?」

彼は私を指さして言った。

「君が描くんだ!」

 

このように、土曜日の朝にウォルトから無茶ぶりともいえる指名を受けた

ライマンは、それでも月曜日の朝までになんとか仕上げてみせたようです。

この地図は、たった2日間で描かれたまさに”伝説の地図”なわけです。

 

 

■地図は複数あった?

 


それではなぜ、そんな貴重なアートがオークションにかけられているのでしょう。

そもそもそれってディズニー社が保管してるんじゃないの?

という当然の疑問が出てきます。

実はこの地図、実際は何枚かあるようです。

今回のオークションの主催者、Van Eaton Galleries が

以下のページで品物の由来を説明しています。

 

vegalleries.com

ざっくり訳すと

・この地図はディズニー社の元従業員がウォルトから直接もらったもの

・白黒の地図がよく知られているが、実は投資家へのプレゼンテーションには

カラーのものが使われた

・模造紙に描いた白黒の原画をなぞるようにカラー版が作成された

・今回出品されたものはプレゼンテーションに実際に使用された、

まさに"本物の"カラーのアート

 

という感じでしょうか。

上記にもある通り、このハーブライマンの地図としては

白黒の鉛筆画が一番有名です。
今年発売された公式本"Maps of the Disney Parks”の

にもこの白黒の鉛筆画が掲載されています。

f:id:banana106:20171214043917j:plain

"Maps of the Disney Parks”より

また、その他の公式本、例えば"ディズニーリゾート物語”等には

カラーのバージョンも掲載されています。

 

f:id:banana106:20171214044158j:plain

"ディズニーリゾート物語”より

おそらくですが、これら公式本に掲載されているものは

ディズニーアーカイブに保管されているのではないかと推測します。 

 

 そしてこの地図、過去にも別バージョンがオークションにかけられているのを

発見しました。

weissauctions.hibid.com

weiss auctions というところでオークションされていたみたいですね。

画像を見る限りはこれまで見てきたものとはどれも違うようです。

 

ということは、

1.白黒のもの("Maps of the Disney Parks”掲載)

2.公式本掲載のカラーのもの("ディズニーリゾート物語"掲載)

3.今回オークションにかけられたもの

4.過去にオークションかけられたもの

 

少なくとも4パターンは存在していると言えそうですね。

 

結局のところ、これらは投資家向けのプレゼン資料だったので、

プレゼン用に何パターンか用意された・・・というのが真相なのでしょうね。

 

■結局どれがオリジナルの地図なの?

 

 

このような経緯があるので、何をもってオリジナルとするかは難しいところです。

ボブ・トマス著の「ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯」にも

この地図の件が登場するのですが、そこにはこう書かれています。

ハーブ・ライマンは月曜日の朝までに図を完成させた。そして何枚かのコピーを作ると、ディック・アーバインとマービン・デービスが色鉛筆で手早く彩色した。

彩色はライマンの手によるものではなかったとはっきり書かれていますね。

 そういう意味ではハーブ・ライマンの手による白黒の地図(原画)こそが

真の意味での"オリジナル”だという考え方もできると思います

生前、マーティーさんが参加されたD23 expoのセッションで

「今回オークションにかけられた地図は本当のオリジナルではない」

という趣旨の発言をされたそうですが、

それもそのような考えに基づいてのことだったのかもしれません。

 

twitter.com

今回調べた限り、地図が実際のところ何枚描かれたかは特定できませんでした。

ということは、ここに挙げた以外にも未発見の地図が、

今もどこかに眠っているかもしれません。

そう考えるとわくわくしますね。みんなで地図を探そう!

 

■終わりに

 

ハーブ・ライマンの地図の伝説、いかがだったでしょうか。

この地図が描かれたとき、

ウォルトの頭の中にしか無かった
ディズニーランドのビジョンが史上初めて具現化したわけで

エンターテインメントの歴史から見ても、
とても重要な一枚だと思います。

また、ハーブ・ライマンの洗練されたタッチが
ディズニーランドの建設に与えた影響も
もちろん無視できないところだと思います。

ウォルトの頭の中には明確な
ビジョンがあったとしても、
それを絵に起こす人がいないと始まりませんからね。
ウォルトがハーブ・ライマンを指名してくれて
本当に良かったと心から思います。

 

今回のまとめ

・ロイター日本語版の「ウォルト・ディズニーの手描き」はほとんどデマ。
・ハーブ・ライマンは神。
・地図は複数ある。未発見のものがまだ眠っているかも。みんなで探そう。

 

えー、それでは次回は来年のd_advent2018でお会いしましょう。(あるのか?)

良いお年を。